電子書籍の手軽さが日常となった現代において、なぜ古屋兎丸の紙の本はこれほどまでに求められるのか。その理由は、彼が武蔵野美術大学で油絵を学んだ正統派の美術家であり、本という媒体そのものをひとつの「空間芸術」として捉えている点にある。
カバーの手触り、見返しの色選定、紙の匂い、そして見開きで炸裂するコマ割りの迫力。漫画出版業界がデジタルシフトを急速に進めるなか、古屋の書籍は「物体として所有する喜び」を強烈に主張し続けている。書棚に並んだときの背表紙の佇まいすら、計算された美学の一部なのだ。画面のスクロールでは決して味わえない、物質としての重みとインクの陰影を堪能することこそ、彼の作品に対する最も贅沢な向き合い方である。