長年にわたり暴力団の取材を続けてきた報道・ジャーナリズムの現場において、稲川裕紘という人物の評価は極めて重層的である。元警視庁担当記者や元捜査幹部たちが一様に口にするのは、彼の驚くべき「二面性」だ。
「面談の場などでは、非常に物腰が柔らかく、知的な印象を与える人物だった。しかし、ひとたび他組織との領地争いや内部の規律維持に関わると、一切の妥協を許さない凄みを見せた」と古参のジャーナリストは述懐する。彼は抗争による組織の疲弊を避けるための外交手腕に長けていた一方で、絶対的な恐怖による統制を怠らなかった。
メディアが報じる表面的な事件報道の裏側には、警察当局との息詰まる情報戦と、生き残りをかけた凄絶な戦略が存在していた。捜査関係者の証言を丹念に繋ぎ合わせることで、単なる「ヤクザのトップ」ではない、冷徹な組織法人の最高責任者としての素顔が浮かび上がってくる。