なぜファンメイドやAIのリアルなスポンジ・ボブを目にしたとき、人間はこれほどまでに強い嫌悪感や恐怖を抱くのでしょうか。この現象は、ロボット工学や認知心理学で提唱される「不気味の谷現象(Uncanny Valley)」で説明が可能です。
人間は、完全に記号化されたアニメキャラクターに対しては「親しみやすさ」を感じます。しかし、対象が中途半端に人間に近づき、肌の質感や毛穴、リアルな眼球などの写実的なディテールが付与されると、脳はそれを「人間のようなもの」として認識しようとします。その結果、アニメ特有の不自然に巨大な目や異常な骨格が「重度の病気や異常を抱えた人間」のシグナルとして誤認され、本能的な防衛本能(嫌悪・恐怖)が引き起こされるのです。
原作者である故スティーブン・ヒレンバーグ氏は、もともと海洋生物学者として研究所で海洋科学を教えていた経歴を持ちます。初期の構想段階では、自然界に存在する不定形の海綿(カイメン)をスケッチしていましたが、「コミカルで親しみやすいキャラクターにするには、四角い台所用スポンジの形状が最も適している」と判断し、徹底的なデフォルメを施しました。
つまり、スポンジ・ボブは「現実の生物学的特徴をあえて脱色し、記号的な可愛らしさを追求したデザイン」だからこそ成立しています。そこに再び過剰な生物学的リアリズムを注ぎ込む行為は、デザインの根本的な文法を破壊する試みであり、見る者に強烈な認知的不協和をもたらすのは必然といえます。