彼のキャリアにおける決定的な転機となったのが、1980年に公開された映画『ヒポクラテスたち』だ。医学生たちの青春とモラトリアム、そしてどこか冷めた現実感を描いたこの作品で、監督を務めた大森一樹は、主演の古尾谷雅人が持つ唯一無二の存在感を鮮やかに引き出した。配給を手掛けた松竹のラインナップの中でも、本作は当時の邦画界に新鮮な衝撃を与えた傑作として語り継がれている。
医学生・荻野愛作を演じた彼は、単なる青春群像劇の枠にとどまらない深い陰影を役に与えた。モラトリアムの焦燥感と、どこか冷めたニヒリズム。大森一樹監督の繊細な演出と共鳴したその演技は高く評価され、日本映画界における新世代の実力派スターとしての地位を確実なものとした。青臭さと危険な匂いが同居するその表情は、当時の若者たちの気分を的確に体現していたと言えるだろう。