1992年の放送開始から24年間にわたり、野原ひろしに命を吹き込んできたのが藤原啓治だ。少しダウナーで、酒と綺麗なお姉さんが好きで、どこか頼りない。けれど決める時はビシッと決める。藤原が創り上げたひろし像は、台本を超えたアドリブと絶妙な間によって生み出された。どこにでもいる35歳のサラリーマンでありながら、家族のために全身全霊を捧げる「かっこいい親父」のリアリティは、彼にしか出せない声の響きがあってこそ確立されたものだった。
しかし、2016年に事態は急変する。藤原の病気療養に伴い、ピンチヒッターとして白羽の矢が立ったのが森川智之である。数々の主役を務めてきた実力派でありながら、国民的キャラクターを引き継ぐ重圧は想像を絶するものだったはずだ。森川は単なる「藤原啓治の声真似」に逃げることをしなかった。藤原が築いたキャラクターの根底にある愛と哀愁を深く理解しつつ、自らの声質をなじませていく絶妙なアプローチを選択したのだ。