この極上の隠れ家が開かれたのは1929年(昭和4年)のこと。歌人としても知られた丹羽勝夫が、津軽の深い山中に湧き出る源泉を見出し、浮世の憂さを忘れる湯治場として開拓したのが始まりだ。電気を引かないという選択は、かつては単なる地理的条件に過ぎなかったかもしれない。しかし時代が下るにつれ、それは「過剰な文明から離れた静寂を守る」という強い意思へと昇華された。
全国の知る人ぞ知る名湯が名を連ねる「日本秘湯を守る会」においても、青荷温泉の存在感は際立っている。利便性を競い合う現代の宿泊施設とは一線を画し、開湯当時の面影と素朴な佇まいを愚直なまでに守り続ける姿勢こそが、旅慣れた大人たちを引きつけてやまない理由だ。