役者としての中村芝翫の軌跡を振り返る上で欠かせないのが、NHKで放送された大河ドラマ 毛利元就での熱演である。当時、3代目中村橋之助として主演を務めた彼は、乱世を生き抜く戦国大名の苦悩と器量をみごとに演じ切り、日本中の茶の間にその名を轟かせた。この作品によって、彼は単なる歌舞伎界のサラブレッドから、国民的知名度を誇る実力派俳優へと飛翔したのだ。
だが、劇的な脚光を浴びた過去の実績があるからこそ、近年のスキャンダルによる落差がより強調される結果となった。重厚な時代劇で培った凛とした存在感と、立役としての堂々たる骨格は、今なお歌舞伎の舞台で独特の華を放っている。過去の栄光を単なる思い出に終わらせるのか、それとも衰えぬ芸の力で再び圧倒的な評価を勝ち取るのか。彼の役者人生はいま、最大の試練と再評価の分岐点に立っている。