松岡の読書術は、世に溢れる速読や要約技術とは一線を画す。彼にとって読書とは、著者の思考プロセスに自らの脳を重ね合わせる「対話の格闘」であった。本を読む際、彼は余白に無数の線を引き、キーワードを抽出し、別の本や体験との関連性を書き込んでいく。
「目次を立体的に読む」「二項対立の隙間に注目する」といった独特のアプローチは、情報をそのまま受け取るのではなく、一度解体して自らの文脈に組み替える作業である。このプロセスを経ることで、受動的なデータは、自分だけの「独自の知性」へと変容を遂げる。
彼が繰り返し強調したのは、「問い」を立てる能力の大切さだ。答えを探すために本を開くのではなく、問いを深く複雑にするために読書を重ねる。この逆転の発想こそが、イノベーションが叫ばれる現代において、本質的なクリエイティビティを生み出す源泉となっている。