1998年4月4日、東京ドーム。超満員の観衆が見守る引退セレモニーで、アントニオ猪木が静かに口を開いた。「この道を行けばどうなるものか……」。あまりにも有名な「道」の詩の朗読である。しかし、この伝説的フレーズの誕生には知られざるドラマが存在する。元々は宗教家・一休宗純の作と誤伝されることも多いが、実際は哲学者・清沢哲男の詩『道』にインスピレーションを得たものだった。
当日、猪木は控室で直前まで何を生々しく話すか完璧に計算していたわけではなかった。溢れ出る感情と、自らの破天荒な足跡を振り返る中で生まれた即興のパッションが、あの「迷わず行けよ、行けばわかるさ」という魂のラストフレーズを結実させたのだ。失敗を恐れて足がすくむ現代人にとって、このエピソードは単なる精神論ではない。実行すること自体の価値を喝破した、極めて合理的な行動哲学の提示でもあったのだ。