茶の湯の世界において、箱書(はこがき)は単なるラベリングの域を遥かに超えている。その起源を辿れば、千利休が自ら選定した茶杓や花入に銘を施し、箱に自筆で書き付けを残したことに端を発する。道具の美を誰が見出し、誰が認めたのかという「鑑識の履歴」が、桐箱というカンバスに刻まれてきた。
江戸初期に大名茶人として君臨した小堀遠州の手による箱書は、その流麗な筆致とともに「遠州極め」として絶大な権威を誇った。彼らが筆を執った桐箱が残されているだけで、無名の陶片が国宝級の茶道具へと昇格する。骨董・古美術の世界において、箱書は真贋鑑定の絶対的な証拠能力を持つのだ。
作家自身が手掛ける「共箱(ともばこ)」であれ、後世の目利きが保証した「極め箱」であれ、箱と中身が揃って初めて作品は完全な姿となる。蓋を失った名品は「裸」と呼ばれ、市場評価は時に半分以下にまで急落する。木肌に墨を入れる行為は、後世の鑑定人に対する厳粛な署名に他ならない。