映画『メメント』を傑作たらしめているのは、カラー映像で描かれる「逆行する時間」と、モノクロ映像で描かれる「順行する時間」がラストシーン(物語の真の中心)に向かって収束していく、完璧に計算されたプロット設計だ。初見の観客は、主人公レナードが置かれた混乱状態を追体験させられる。誰が味方で、誰が敵なのか。10分前の出来事すら霧の彼方に消えていく彼の主観世界に、私たちは容赦なく放り込まれる。
そして訪れる戦慄の結末。すべての伏線が回収される瞬間、暴かれるのは外部の黒幕ではなく、レナード自身の心理的防衛機制だ。彼が追い求めていた「妻を殺害した真犯人ジョン・G」は、すでに過去に彼自身の手によって始末されていた。警官のテディが明かす残酷な真実はそれだけに留まらない。インスリンの過剰投与で妻を死なせてしまった哀しい男「サミー・ジャンキス」の悲劇そのものが、罪悪感に耐えかねたレナードが無意識にすり替えた彼自身の過去だったのだ。
レナードは真実を直視する代わりに、新たな復讐のターゲットとしてテディを選び、自らポラロイドに「あいつの嘘を信じるな」とメモを書き残す。彼にとって生きる意味とは、復讐を完遂することではなく「復讐という終わらない目的を持ち続けること」だった。この極限の自己欺瞞こそが、映画史上に残るサイコスリラーとしての真骨頂である。