国際的な評価を確立した是枝裕和監督が、日本を代表する名優・役所広司とタッグを組んで挑む新境地。それが今作を決定づける核となっている。これまでのヒューマンドラマで見せてきた冷徹かつ温かみのある人間洞察を、今回は純度の高いサスペンス・ミステリーへと昇華させた。人間の弱さと狡猾さ、そして取り返しのつかない喪失感が、容赦のない緊張感の中で炙り出される。
役所広司が演じるのは、記憶の混濁と現実の崩壊の狭間に立たされた男。狂気と理性のグラデーションをわずかな視線の揺らぎだけで表現するその圧倒的な怪演は、試写の段階で立ち会ったごく少数の関係者の言葉を奪ったという。重厚な心理描写と予測不能なプロットツイストの融合は、ジャパニーズ・ノワールの新たな金字塔となる気配を漂わせている。