そもそも、なぜ「義」はこのような筆順に定められているのでしょうか。昭和33年(1958年)に文部省(現・文部科学省)が制定した『筆順指導の手びき』が示す原則と、古代の文字形成の成り立ち(字源)を紐解くと、極めて明快で合理的な理由が見えてきます。
漢字の筆順には、数千年にわたる毛筆文化の中で培われた「上から下へ」「左から右へ」という絶対的な運動力学が存在します。「義」という文字は、神聖な生贄の羊を意味する「羊」を上部に掲げ、下部にノコギリ状の刃がついた儀礼用の武器を手にする「我」を配した会意文字です。「自己を厳しく律し、神仏に対して正しく身を処す」という崇高な意味を持ちます。
この上下構造を持つ漢字を毛筆で滑らかに書く場合、まず天にある「羊」を整え、筆の穂先が自然に下部の中央へ向かう動線が生まれます。上部「羊」の6画目で縦画を引き下ろした際、突き抜けずに止めるのは、次に控える「我」の広大な運筆エリアを圧迫しないための必然的な空間配分です。
そして下部の「我」へと移行する際、筆先は左上から右下へと流れるため、左上の短い払い(第7画目)を起点にするのが身体運動として最もスムーズです。続く「横画(第8画)→縦鉤(第9画)→提(第10画)」は、左半身を支える強固な軸を作り出します。そして右側の「長い斜め反り(第11画)→斜め払い(第12画)→右上の点(第13画)」という展開は、「戈(ほこ)」を構成する漢字(成、代、式など)に共通する「中心から右下へ大きく張り出し、最後に右上へ点を打って全体を引き締める」という美学的・力学的完結ルールに完全に合致しているのです。