移動販売のブームを後押ししたのは、間違いなくポップカルチャーの力だった。ジョン・ファヴローが監督・主演を務め、フードトラックブームの先駆者であるロイ・チョイがフードチーフとして監修に入った映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』は、多くの人々に「一台のトラックから人生をリスタートさせる自由」の眩しさを焼き付けた。
さらにNetflixで話題を集めた『ストリート・グルメを求めて』といったビジネス・起業ドキュメンタリーの数々は、自らの腕一本で路地裏から熱狂を生み出すカルチャーの美しさを伝えてきた。理不尽な組織を飛び出し、自分だけのこだわりの一皿を街角で振る舞う。そんなロマンに惹かれてハンドルを握った脱サラ組は少なくない。
だが、スクリーンに映らない現実がある。真夏の車内温度は50度を超え、真冬は手足の感覚が麻痺する極限の環境。さらに、車載バッテリーの電圧低下やプロパンガスの充填拒否といった無骨なトラブルが容赦なく日常を襲う。映画のような心地よいラテン音楽のリズムではなく、過酷な物理的制約と数字のプレッシャーこそが、この現場の真実だ。