ドアが勢いよく閉まる瞬間、空間には二つの異なる音の波が放たれる。一つは空気を震わせて耳に届く空気伝播音。そしてもう一つが、建物の躯体そのものを揺らす固体伝播音だ。
建築音響工学の視点から見ると、この固体伝播音こそが近隣トラブルの主犯格である。ドア枠から柱、梁、床スラブへと振動がダイレクトに伝わり、離れた部屋や上下階の壁面全体を巨大なスピーカーに変えてしまう。日本建築学会の研究報告でも、重量衝撃音や建具の衝突音は減衰しにくく、居住者の不快感を急激に跳ね上げることが指摘されている。
「自分は静かに暮らしている」という自負があっても、躯体を伝う微細な振動までは感知できない。ドアノブを回さずにそのまま閉める癖や、気圧差による不意の突風が、階下の住人にとっては毎日の精神的負担になりかねないのだ。