長年続いた出版不況の潮目が明確に変わった。日本書籍出版協会がまとめる流通指標を見ても、全体のパイを支えているのは間違いなくデジタル領域だ。かつて紙の代替品と見なされていた電子書籍市場は、いまや業界の収益構造そのものを根本から支える大黒柱へと成長を遂げた。
牽引役の筆頭であるAmazon Kindleは、単行本の即時配信にとどまらず、定額読み放題サービスを通じた読書体験の日常化を定着させた。通勤電車の中で分厚いハードカバーを開く人の姿は減ったが、端末の画面越しに文字を追う時間はむしろ増えている。出版業界は今、紙とデジタルの二者択一ではなく、双方の強みをどう棲み分けるかという実利的なフェーズへ移行した。
紙の本は「情報を得る手段」から「手元に残したい工芸品」へと価値を変え始めている。装幀の美しさや紙の質感を売りにした高価格帯の本が即完売する現象は、所有欲を満たすフィジカルメディアとしての強靭な生命力を証明している。