若尾文子のフィルモグラフィは、日本映画界の至宝そのものである。そのキャリアにおける最大の転機となったのは、溝口健二監督の遺作となった『赤線地帯』(1956年)への出演だった。それまでの清純派アイドル的なイメージを打ち破り、金に執着する狡猾で逞しい娼婦役を見事に体現。女優としての底知れぬ実力を世に知らしめた。
そして彼女の魅力を究極まで開花させたのが、名匠・増村保造との盟友関係である。『妻は告白する』(1961年)での息をのむような緊迫感と情欲、『清作の妻』(1965年)で見せた狂気的なまでの愛の執着、さらに『しとやかな獣』(1962年)における冷徹でモダンな悪女像。増村のエネルギッシュな演出と若尾の鋭利な演技美は、日本映画史に燦然と輝く傑作群を生み出した。