真偽の怪しさが歴史学の分野で指摘され始めていたにもかかわらず、公教育の現場では逆の動きが加速した。文部科学省が発行する小中学校向けの道徳副読本『私たちの道徳』に、この概念が道徳的模範として正式に掲載されたのである。国家の教育指針とも言える公式文書に組み込まれたことで、全国の小中学校で「江戸の素晴らしい道徳」として児童に教え込まれる事態となった。
教育行政が科学的な実証を経ずに道徳的メッセージを優先した結果、根拠のない「伝統」が真実として子供たちに刷り込まれていった。道徳教育の名のもとに推進されたこの混乱は、教育行政における史料批判の欠如を露呈する深刻な問題となった。