1992年バルセロナオリンピックの開幕直前、日本柔道界を激震が走った。優勝の大本命と目されていた男が、現地での調整中に左膝の側副靭帯を全断裂するという絶望的な大怪我を負ったのだ。立つのも困難な状況下、宿舎の部屋で共に涙を流したのは、弟分であり後に78kg級で金メダルを獲得する吉田秀彦だった。乱取りの最中に起きたアクシデントに、誰もが欠場はやむを得ないと確信した。
しかし、彼は諦めなかった。痛みに耐えるため大量の鎮痛剤を打ち、足を引きずりながら畳に立った。得意の背負い投げが封じられるなか、足を軸にして執念の投げを打ち続け、見事に金メダルを獲得。怪我の絶望から掴み取ったこの奇跡は、五輪史上に残る感動の舞台裏として今も語り継がれている。