1998年、日本の音楽シーンは再び激震に見舞われる。15歳の少女、宇多田ヒカルのデビューである。R&Bの最先端を取り入れたそのサウンドは、母のドロドロとした昭和歌謡とは対極にあるように見えた。しかし、耳の早いリスナーはすぐに気づいた。その歌声の奥底に潜む、あの「揺らぎ」と「哀愁」の正体に。
「母の歌声は私のDNAに刻まれている」と、かつて本人が語ったように、宇多田ヒカルのメロディラインには、藤圭子が持っていた独特の節回しや、言葉の端々に宿る「業」のようなものが息づいている。それは遺伝的な祝福であると同時に、逃れられない表現者としての呪縛でもあった。