センセーショナルな報道によって広まった「建設現場で6,500人が死亡」という説ですが、客観的なデータを精査すると、報道の切り取りと現地の実態との間には明らかな乖離が存在します。
前述のガーディアン紙が報じた「6,500人」という数字は、インド、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、スリランカの各大使館から入手した公的データを集計したものです。しかし、この母集団は「2010年末の開催地決定から2026年までの10年間に、カタール国内で亡くなった上記5カ国の外国人労働者全員」でした。そこには建設作業員だけでなく、ドライバー、警備員、清掃員、オフィスワーカーなど、あらゆる職業の外国人が含まれており、死因も交通事故、心臓発作、病死、高齢による自然死などが混在していました。
一方で、カタール大会組織委員会(最高委員会:SC)が主張した「業務起因の死亡はわずか3件」という数字も、国際機関や人権団体からは激しい批判を浴びました。中東の夏季における気温は容易に摂氏45度から50度に達します。過酷な熱ストレスによって引き起こされた多臓器不全や心停止が、適切な検視解剖を行われないまま「自然死」「急性心不全」として片付けられていたケースが相次いだからです。
国際労働機関(ILO)が主導した現地調査でも、死因究明の杜撰さが浮き彫りになりました。6,500人という数字は全死者数の混同であるにせよ、カタール政府が掲げた「安全管理の完璧さ」もまた実態を隠蔽したレトリックに過ぎず、数多くの名もなき労働者が極限の環境下で命を落とした現実は揺るぎません。