クラシック音楽から近代日本政治の核心へ——この突拍子もないようにも思える跳躍の中に、片山氏が提示する最大の「知的発見」が眠っている。音楽とは決して政治と無縁の優雅な余興ではなく、その時代が抱える集団心理や国家意志の「響き」そのものであるという視座だ。
たとえば、昭和戦前期の超国家主義や総力戦体制の台頭を描き出す際、政治制度の分析だけに終わらない。同時代に響き渡っていたシンフォニーや軍歌、あるいは西洋音楽の受容のされ方に潜む過剰な自意識を分析することで、当時の日本人がどのような精神の位相に置かれていたかを鮮烈に浮かび上がらせる。政治と言語、そして音響が重なり合う場所に立ち現れる時代精神の全貌。これに触れたとき、読者はこれまでの歴史観が覆されるような強烈な知の醍醐味を味わうことになる。