「いらっしゃい!」と厨房から響く野太く温かい声。店主の久枝氏が厨房で振るう麺棒のリズムは、まるで職人の舞のようだ。一般的な讃岐うどん職人が粉と塩水の配合に全神経を注ぐなか、久枝氏はそこに「割烹の技術」を大胆に持ち込んだ。だしの引き方ひとつ取っても、イリコの雑味を極限まで抑え、昆布と節類の旨味を重層的に重ね合わせる緻密さがある。
麺はただ硬いだけのコシではない。噛み締めた瞬間にモチッと押し返され、喉を通るときにはツルリと滑り落ちる絶妙な加水バランス。毎朝その日の気温と湿度を見極め、粉の練り具合を微調整する。そのストイックな仕事ぶりとは対照的に、店内には店主自ら描いたユーモラスなPOPや仕掛けが溢れ、訪れる者の肩の力をふっと抜いてくれる。