大正12年、小説家・佐藤紅緑の娘として兵庫県西宮市に生まれた佐藤愛子。裕福な家庭環境と、芸術的な才能が交錯する刺激的な屋敷で育った。当時としては誰もが振り返るほどの美貌を誇り、時代の先端を行くモガの装いを軽やかに着こなしていたという。
異母兄には童謡『ちいさい秋みつけた』や『リンゴの唄』で知られる詩人サトウハチローがいた。日本文学史に燦然と輝く名血を引く血族の一員でありながら、その若き日は決してみち足りた平和だけに彩られていたわけではない。一族に脈々と流れる狂気にも似た苛烈なエネルギーと芸術的才能の陰で、彼女自身もまた若き日から激しい感情の葛藤を抱えていた。