札幌市資料館の最大のアイデンティティは、その建物自体が語る近代司法と建築の歴史にあります。本館は、当時の全国7大控訴院(現在の高等裁判所に相当)の一つとして建てられた旧札幌控訴院庁舎です。設計を手掛けたのは司法省の技師・荒井金造らで、構造には鉄筋コンクリートと組積造を組み合わせ、外壁には地元産の「札幌軟石(南区石山から産出された凝灰岩)」がふんだんに用いられました。
外観を見上げると、正面玄関上部には法の正義を象徴する「目隠しをした正義の女神・テミス」や天秤、ギリシャ神話の意匠をモチーフにしたレリーフが刻まれており、大正モダニズムの薫りを今に伝えています。戦後は札幌高等裁判所や地方裁判所として1973年まで使用された後、札幌市資料館として再生され、2026年(令和2年)12月に国の重要文化財に指定されました。
取材関係者が「地方都市にこれほど完全な形で大正期の官庁建築が残されている例は極めて稀」と評するように、札幌軟石特有の温かみのある質感とネオ・バロック様式を取り入れた威厳あるプロポーションは、建築ファンのみならず訪れるすべての人を魅了し続けています。