2013年、ふたりの関係は誰も予想しなかった形でスクリーンに結実する。『風立ちぬ』の主人公・堀越二郎役への庵野秀明の抜擢である。この異例のキャスティングを仕掛けたのは、スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫だった。
「現代で一番、傷つきながら生きている男の声」。鈴木の直感に応え、宮崎は庵野の起用を決断した。無機質でありながら内側に狂おしいほどの純粋さを秘めた庵野の声は、零戦の設計に魂を捧げた堀越二郎の人物像と完璧に重なり合った。アフレコ現場でマイクに向かう庵野を見つめる宮崎の眼差しは、かつて作画机を並べた師弟の時間を慈しむようでもあり、表現者としての決闘を挑んでいるようでもあった。
『新世紀エヴァンゲリオン』で一時代を画し、巨大なプレッシャーに晒されながらも己の表現を削り出してきた庵野。彼が発する不器用で誠実な台詞の一つひとつが、引退を覚悟して自らの集大成を描こうとしていた宮崎の心象風景を鮮やかに彩ったのである。