ネット上の掲示板やSNSでは「グリーンランドは一面氷だけの無人の地」といった極端なイメージも散見されるが、現場の実態は大きく異なる。過酷な自然環境と急速な近代化が交錯する最前線の姿を検証する。
南西岸に位置する首都ヌーク(Nuuk)は、人口約2万人が暮らす近代都市だ。色彩豊かな北欧様式の木造住宅とモダンなガラス張りのビルが立ち並び、自治議会、グリーンランド大学、国立美術館などが集積している。近年は大型ショッピングモールやカフェ、通信インフラの整備が急速に進み、若者の間ではスマートフォンを通じたSNSカルチャーが定着している。
グリーンランド全体の総人口は約5万6,000人。その約9割を先住民族イヌイット系が占めている。主要産業の屋台骨は長年、冷たい清涼な海が育む水産業であり、特にエビ(ホッコクアカエビ)やカラスガレイの輸出が総輸出額の90%以上を占める。日本国内の回転寿司やスーパーで流通する甘エビの多くも、デンマーク王室御用達のブランド「ロイヤルグリーンランド」を通じて極北の海から運ばれている。
一方、全土の約80%を覆う巨大な氷床(厚さ平均約1,500〜2,000メートル)には劇的な異変が生じている。デンマーク気象研究所(DMI)やESA(欧州宇宙機関)の観測衛星データによれば、地球温暖化の影響により年間2,000億トンを超えるペースで氷が融解。この現象は地球規模の海水面上昇という深刻な脅威であると同時に、現地には皮肉な副産物をもたらしている。
氷が後退したことで、沿岸部の航路が長期にわたり開通しやすくなり、地下に眠るレアアース(希土類)、ウラン、金、石油・天然ガスといった未開発資源の採掘可能性が現実味を帯びてきた。資源開発によってデンマークからの年間約40億クローネ(約800億円)に上る財政補助金への依存を脱し、完全な国家独立を果たそうとする政治的機運と、貴重な自然環境の破壊を懸念する住民運動との間で、現在も激しい議論が戦わされている。