1981年10月にスタートした連続ドラマ版『北の国から』において、当時11歳だった吉岡秀隆が抜擢されたことで黒板純の歴史は始まりました。東京で生まれ育ち、電化製品や都会の利便性にどっぷり浸かっていた小学生の純にとって、電気も水道もない富良野の廃屋での生活は「強制連行された過酷な牢獄」に等しいものでした。
富良野を嫌悪し、常に心の中で東京の母や叔母に語りかける独特のナレーション「〜なわけで…」は、純の内省的な性格と孤独感を象徴する代名詞となりました。純は決して完全無欠のヒーローではありません。むしろ、嘘をつき、責任から逃げ、他人のせいにし、時に大切な人を深く傷つけてしまう「人間の弱さ」の塊でした。
倉本聰は当て書き(俳優本人の性格や成長を見越して脚本を書く手法)を用いて、吉岡秀隆の実年齢の成長とともに純の挫折を描き続けました。思春期の性への目覚め、東京への再上京、バイク事故、妊娠トラブル、ゴミ処理現場での肉体労働など、純が背負った試練の重さは一般的なテレビドラマの主人公の域をはるかに凌駕しています。だからこそ、視聴者は彼のみっともない足掻きに自分自身の弱さを重ね合わせ、共鳴し続けたのです。