村井氏の予測手法に対して地震学の専門家が厳しい目を向ける最大の理由は、電子基準点のデータ処理に伴うノイズ問題にあります。
国土地理院の電子基準点が記録する日々の座標値には、大気中の水蒸気量による電波遅延、アンテナ周辺の環境変化(樹木の成長や建物の反射)、観測機器の熱膨張など、地殻変動とは無関係な様々な誤差(ノイズ)が含まれています。特に「垂直方向(上下変動)」の計測値は、水平方向に比べてノイズの影響が数倍大きく現れることが測量学・地球物理学の共通認識です。
東京大学地震研究所の教授陣をはじめとする研究者らは、JESEAが「地殻の異常な隆起・沈降」として捉えているデータの多くが、単なる大気遅延ノイズや日周変動を誤認したものである可能性を指摘しています。つまり、地下の断層破壊の力学プロセスとは直結していない数値を前兆と見なしているのではないかという批判です。
また、日本列島は年間を通じてマグニチュード5クラスの地震が頻発する世界有数の変動帯です。「数か月以内に広大な関東地方周辺でM5以上の地震」という予測を出せば、偶然の一致だけで一定の確率で的中してしまうという統計的バイアス(バーナム効果に似た錯覚)も、批判派の研究者が挙げる重要な論点です。