日本の近代文学において、「貞女」という存在は格好の批評的対象であった。代表的なのが、文豪・芥川龍之介の短編作品に見られる卓越した人間描写だ。芥川は単に旧来の徳目を称揚するのではなく、封建的な美徳の陰に隠された人間臭いエゴイズムや葛藤、時には皮肉を込めて「貞女」の姿を描き出した。
当時の出版・メディア産業における文芸雑誌や新聞小説の広がりは、こうした文学的試みを大衆へと届ける強力なエンジンとなった。近代の読者たちは、古典的な規範に縛られた静的な女性像ではなく、内面に嵐を秘めた生身の「ていじょ」の葛藤に息をのんだのである。文豪たちが残したフリガナや注釈は、難読漢字・国語学の観点からも当時の言語意識を知る貴重な史料となっている。