若くして頂点に迫りながらも、加藤九段のタイトル獲得への道は平坦ではありませんでした。当時の将棋界には、昭和の大巨人である大山康晴十五世名人や升田幸三実力制第四代名人、そして後に一時代を築く中原誠十六世名人といった不世出の大棋士たちが立ちはだかっていたからです。
加藤九段が最高峰のタイトルである「名人」の座を射止めたのは、プロ入りから28年が経過した1982年、42歳の時でした。第40期名人戦七番勝負は、将棋史上に残る大死闘として今なお語り継がれています。
当時名人に君臨していた中原誠十段(当時)との戦いは、千日手(指し直し)が2局、持将棋(引き分け)が1局発生し、異例の「十番勝負」へともつれ込みました。約3か月半にわたる極限の精神戦の末、最終第10局を制した加藤九段が念願の名人位を獲得しました。敗北を恐れずに愛する棒銀戦法を貫き、不屈の闘志で掴み取ったこの勝利は、天才が真の王者へと到達した歴史的瞬間でした。