BSE(Bovine Spongiform Encephalopathy=牛海綿状脳症)は、牛の脳組織がスポンジ状(海綿状)に変化し、運動失調や麻痺を引き起こして死に至る致死性の神経疾患です。一般には「狂牛病」の通称で広く認知され、世界的な恐怖を呼び起こしました。
この病気の根本的な原因物質は、細菌やウイルスではなく、タンパク質の一種である異常プリオン(異常型プリオンタンパク質)です。正常なプリオンタンパク質が何らかの要因で立体構造を変化させ、脳内に蓄積することで神経細胞を破壊します。異常プリオンは通常の加熱調理や消毒薬では容易に不活化されない極めて強固な耐性を持つため、当時の消費者に大きな衝撃を与えました。
感染爆発の直接的な引き金となったのは、家畜の残渣などを粉末加工した高タンパク飼料である肉骨粉(にくこつぷん)でした。本来は草食動物である牛に、感染牛の肉や骨を含む肉骨粉を与えたことで「同種共食い」のサイクルが成立し、英国を中心に感染が拡大したのです。さらに、BSEに感染した牛の特定部位を摂取することで、人間に致死的な脳疾患である変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)を発症させるリスクが指摘され、問題は畜産業界にとどまらず公衆衛生上の重大危機へと発展しました。