カイロ市内の雑踏。タハリール広場からほど近い裏通りに、その筋では知られた代書屋が点在する。観光客向けの土産物屋の奥、煙草の煙が立ち込める薄暗い部屋で、あるブローカーは肩をすくめてこう言い放った。「金とコネさえあれば、手に入らない書類などこの街には存在しない」
彼らが扱うルートは大きく分けて二つある。一つは、精巧な偽造印や古い羊皮紙風の用紙を用いた「完全な偽造品」の作成だ。だが、より深刻なのはもう一つの手口――大学関係者や行政職員への賄賂を通じた「本物の台帳書き換え」と「正規スタンプの不正取得」である。エジプトの公的機関では長年、低賃金にあえぐ職員が裏金目当てに公印を不正使用するケースが後を絶たない。学籍番号を過去の退学者のものとすり替え、卒業生名簿に名前を割り込ませる手口すら存在する。
数千ドルから数万ドルという大金が動くこの闇市場では、買い手の身元や要求水準に応じて複数のランクが用意されているという。単なる記念品レベルの模造品から、現地公証役場の認証印が押された「本物の偽造証書」まで。書類の信憑性を担保するはずの公的機関そのものが、ブラックマーケットの供給源と化している現実がそこにある。