厨房の奥で赤々と爆ぜる薪火。地元の山林整備で出たナラやクヌギの剪定枝を燃料に使い、石窯の内部を400度以上の高温に温め上げる。電気オーブンとは違い、薪窯が放つ強烈な遠赤外線は生地の表面を瞬時に焼き固め、内部に極限までの水分を閉じ込める独特の調理効果を発揮する。店主が試行錯誤の末に生み出した高加水仕込みにより、焼き上がったパンの内部は瑞々しく、まるで生菓子のようなしっとり感と弾力を保持している。
原材料へのアプローチも破格だ。使用するのは、周辺の休耕地を耕して自社栽培した完全無農薬のライ麦や古代小麦スペルト。機械による高速製粉をあえて避け、伝統的な石臼でじっくり時間をかけて挽くことで、小麦が持つ繊細な油脂分や酵素を破壊せずに生地へ抱き込ませる。一口含めば、鼻腔を抜ける野生的な酸味と、噛むほどに溢れ出す濃密なコクが食べる者の味覚を強烈に揺さぶる。