乱歩賞の歴史を振り返る際、決して避けて通れない転換点がいくつか存在する。その象徴が、1985年の第31回受賞作、東野圭吾の『放課後』だ。端正な密室トリックと学園を舞台にした瑞々しい人間描写は、当時の読者を驚嘆させ、後に国民的ベストセラー作家へと駆け上がる号砲となった。本格ミステリ小説の文脈に清新な風を吹き込んだ金字塔である。
さらに1993年、桐野夏生が『顔に降りかかる雨』で受賞を果たした際、業界には強烈な衝撃が走った。ハードボイルドの領域に女性探偵の視点を持ち込み、従来の枠組みを鮮やかに解体したのだ。彼女はその後、世界的な評価を受けるクライムノベルを連発することになる。乱歩賞は単なるパズル解きの技術だけでなく、人間の闇や時代の空気をえぐり取る強烈な個性を常に求めてきた。