一般的なクラフトコーヒー市場では「フレッシュさ」こそが絶対的な価値とされる。焙煎してから数日以内の豆を良しとするサードウェーブの常識に対し、この店が提示する解答は真逆だ。温度と湿度が厳格に管理された倉庫で、10年、20年、時には半世紀以上もの時を越えて熟成された「オールドコーヒー」の存在である。
水分が抜け、うっすらと黄ばんだヴィンテージの生豆は、焙煎機の中で独特の変容を遂げる。角が取れ、果実味と生木の香味が複雑に絡み合ったその味わいは、まるで上質なヴィンテージワインやシングルモルトウイスキーのようだ。一口含むと、舌の上に広がるのは苦味や酸味という単純な言葉では形容できない、奥行きのあるグラデーション。時間を味方につけた豆だけが到達できるこの境地こそ、世界中のコレクターやバリスタが足を運ぶ最大の理由だ。