あの耳から離れない独特な唸り声と、重厚でありながらコミカルな台詞回し。それを生み出しているのが、日本の声優業界を代表する重鎮・若本規夫だ。当初の演じ方は現在よりも遥かにストレートなサラリーマンの声であったが、長年の放送の中で若本自身がキャラクターに独自のディフォルメとアドリブを加えることで、唯一無二の個性が確立された。
マイクの前で繰り出される「~なんだよぉ、マスオくぅ~ん」という独特の抑揚は、若本が持つ警察官出身という異色の経歴や、武道で培われた腹式呼吸の技術、さらにはシェイクスピア劇などの舞台経験が複雑に絡み合って生まれた奇跡の産物と言える。声優本人が役に寄り添い、役と共に成熟していく過程で生まれた数々の即興表現は、アニメ表現の歴史においても極めて稀有な成功例として語り継がれている。