残されたノートをめくると、鉛筆の走る乾いた音が聞こえてくるようだ。1945年8月14日正午から翌15日の玉音放送に至る24時間を描いた不朽の名作『日本のいちばん長い日』。その執筆過程で行われた数百名に及ぶ関係者への聞き取りには、かつて活字化を見送られた「オフレコ証言」が多数存在していた。
最新の検証によって判明したのは、陸軍省内で徹底抗戦を叫んだ青年将校たちの動揺が、従来定説とされてきた狂信的な一枚岩ではなかったという事実だ。半藤が自筆で「○○氏、声を詰まらせて沈黙」と書き留めた余白には、クーデター計画の土壇場で家族の顔を思い浮かべ、拳銃の引き金に指をかけながら震えていた軍人の素顔が生々しく記録されている。当事者の親族への配慮から当時は伏せられた固有名詞や心理描写が、半世紀以上の時を経て、あの破滅前夜の密室劇に新たな陰影を投げかけている。