物語の中心に立つ主人公・恩地元。その鮮烈な生き様には、日本航空(JAL)の元労組委員長である小倉寛太郎という実在の人物が色濃く投影されている。労働者の過酷な労働環境改善と安全運航を求めて立ち上がった彼は、会社上層部にとって「危険分子」以外の何物でもなかった。その結果下されたのは、カラチ、テヘラン、ナイロビと、十数年にも及ぶ過酷極まる海外僻地へのたらい回し人事だった。
山崎豊子は膨大な一次資料の精査と綿密な現地取材を通じて、彼がアフリカの大地で見つめた孤独と誇りを浮き彫りにした。企業の論理がいかに個人の尊厳を蹂躙し、安全という最優先事項を後回しにしていくのか。冷酷な権力構造の内実を暴き出す筆致は、読む者の胸を激しく締め付ける。