ヤマアラシの針は、単に先端が尖っているだけではありません。電子顕微鏡で観察すると、針の先端部分には無数の微細な「逆トゲ(かえし)」がびっしりと並んでいます。
このかえし構造には、物理学的に極めて高度な特徴が2点備わっています。
1点目は「刺さりやすさ」です。針が獲物の皮膚や筋肉に進入する際、微細なかえしが組織を切り裂くガイドの役目を果たし、通常の滑らかな針に比べて約半分の力で深く突き刺さります。
2点目は「圧倒的な抜けにくさ」です。一度刺さると、かえしが肉の繊維にガッチリと引っかかり、引っ張る力に対して強烈な抵抗を生み出します。無理に引き抜こうとすれば、周囲の肉組織ごと大きく引きちぎることになり、激痛と大出血を伴います。
さらに恐ろしいことに、刺さった針は筋肉の伸縮運動に伴って、1日に数ミリから数センチ単位で体の奥深部へと自然に進んでいく性質を持ちます。放置すれば血管や重要な内臓器官を貫通し、致命傷をもたらす要因となります。