この山荘を語る上で欠かせないのが、北海道の山々を愛した山岳画家・坂本直行との深縁だ。六花亭の銘菓の包装紙に描かれた野草画で全国的に知られる坂本は、若い頃から大雪山の峻険な山嶺を歩き回り、スケッチを重ねた。宿の館内には、彼が滞在時に遺した貴重なスケッチや手書きのメッセージが密かに大切に残されている。
古参の常連客が語る秘話がある。ある大雪の夜、坂本直行は吹き荒れる吹雪の中で宿に辿り着き、暖炉の火にあたりながら一晩中山の魅力を語り明かしたという。壁に飾られた一枚の絵には、当時の登山家たちの熱気と、山への深い畏敬の念が今も色濃く刻まれている。歴史の重みを感じさせるこれらの絵画や資料は、宿泊者だけに許された密かな鑑賞の楽しみだ。