都内の食品安全検査機関で現場指導にあたる担当者は取材に対し次のように述べています。「国内流通ルートに並ぶ葉物野菜において、肉眼で明瞭に確認できるほど高濃度の農薬粉末が乾燥凝縮して残存しているケースは極めて稀です」。現在のポジティブリスト制度下では、残留基準値は健康被害が生じないレベルの100分の1から1000分の1という安全域で厳格に運用されています。
それにもかかわらず、家庭の台所では「白い粉=危険な薬品」という短絡的な結びつきが解消されていません。生活情報サイトやSNSのアンケート調査結果を参照すると、野菜の白い付着物を見た際に「不安を感じて廃棄した経験がある」と答えた割合は全体の28.4%に達しています。この現象の背景には、リスク認知心理学が指摘する「ゼロリスク信仰」と「アベイラビリティ・ヒューリスティック(想起しやすい恐怖記憶への依存)」が存在します。
昭和から平成初期にかけて報じられた過去の食品農薬スキャンダルや輸入野菜の残留問題の記憶がいまなお消費者の潜在意識に残り、眼前の「天然結晶」を農薬と条件反射的に誤認させているのです。カビと農薬の見分け方を客観的に捉える指針を提示することで、過度な不安による可食部の破棄を食い止めるメディアの情報提供が強く求められています。