東映株式会社が手掛けた数多の時代劇作品において、近衛十四郎が演じた柳生十兵衛は決定版として映画史に刻まれている。『柳生武芸帳』シリーズで見せた二刀流の太刀筋、漆黒の眼帯の奥から放たれる眼光。それは単なる勧善懲悪のヒーロー像を遥かに超えていた。
群がる刺客を瞬時に薙ぎ払う居合のスピード。カメラが追いつかないほどの早業に、当時の監督たちは長回しでの撮影を余儀なくされたという。型通りの美しさだけでなく、泥にまみれ、着物を裂かれながらも敵を屠るリアリズム。彼が確立した泥臭くも鋭利な殺陣の迫力は、その後の東映京都撮影所におけるアクション演出の基礎骨格となった。