現代における女形の最高峰といえば、坂東玉三郎の名を挙げないわけにはいかない。その玉三郎から直接薫陶を受け、美の哲学を肌身で吸収してきたのが中村七之助だ。型をなぞるだけでは決して到達できない「役の性根」を捉える眼差しは、偉大な先達との濃密な時間の中で徹底的に鍛え上げられた。
その象徴とも言える演目が、玉三郎と共に舞った『二人藤娘』である。舞台上に咲き誇る藤の花の下、二人の女形が織りなす幻想的な空間は、古典舞踊の枠組みを超えた美の対話そのものだった。玉三郎の神々しいまでの気品に対し、七之助が見せたのは、瑞々しさと研ぎ澄まされた情感の交錯だ。偉大な師の影に隠れることなく、自らの芸で対峙したその姿は、歌舞伎の歴史に新たな金字塔を打ち立てた。