古典文学の最高峰『源氏物語』において、この聖域は物語屈指の名場面として描かれている。第十帖「賢木(さかき)」の舞台だ。主人公・光源氏が、伊勢へと下る決意を固めた六条御息所を訪ね、黒木の鳥居をくぐる場面を、作者の紫式部は研ぎ澄まされた筆致で描き出した。
NHKの大河ドラマ『光る君へ』の放送を経て、平安朝の美意識や人間模様への関心は一段と高まった。秋の深まりとともに枯れゆく嵯峨野の野宮で、交わされる情熱と別れの予感。源氏が差し出した一本の榊に託された哀切な思いは、千年の歳月を経た今も色褪せない。文学の舞台を追体験しようと訪れる読書子たちの視線は、社殿の奥に広がる緑鮮やかな「じゅうたん苔」へと注がれている。