後ろ歩きの恩恵は肉体面にとどまりません。近年の神経科学分野の研究では、脳機能の活性化や認知症予防に対するアプローチとしても熱い視線が注がれています。
通常の歩行時、私たちは視界から得られる膨大な情報をもとに無意識に身体をコントロールしています。しかし後ろ向きに進む場合、前方の視覚情報が遮断されるため、脳は足裏の触覚、筋肉の収縮度合い、関節の位置関係といった「固有受容感覚(プロプリオセプション)」を総動員して空間を把握しようとします。
このプロセスにおいて、脳の前頭葉や小脳、頭頂葉の神経ネットワークが激しく刺激されます。バランス感覚を司る前庭系と連動しながら身体をコントロールすることで、空間認知機能や短期記憶力の向上が期待できます。海外の研究チームが発表した実験でも、後ろ向きの歩行や動作イメージを行った被験者グループにおいて、記憶テストのスコアが有意に向上したという報告がなされています。