まずは、作品の全貌を改めて味わいたい。作品が提示する世界観は、驚くほど身近な風景でありながら、同時に圧倒的なスケール感に溢れている。
「カムチャツカの若者が/きりんの夢を見ているとき/メキシコの娘は/朝のもやの中でバスを待っている/ニューヨークの少女が/ほほえみながら寝がえりをうつとき/ローマの少年は/ハチドリにウィンクする/この地球では/いつもどこかで朝がはじまっている」
「ぼくらは朝をリレーするのだ/経度から経度へと/そうしていわば交代で地球を守る/眠る前の三分間/耳をすますと/どこか遠くで目覚まし時計のベルが鳴っている/それはあなたが投げたバトンを/誰かが受け取った証拠なのだ」
太陽の光は自転に伴い、東から西へと順に地球を包んでいく。カムチャツカからメキシコ、ニューヨーク、ローマへ。国も文化も異なる見知らぬ人々の日常が、「朝」という共通の瞬間を通じて一本の目に見えない糸で紡がれる。谷川俊太郎が織りなす軽やかで親しみやすい日本語の奥底には、個々の孤独を大きな地球の循環のなかへと優しく包み込む包容力が宿っている。