物語の中心で圧倒的な存在感を放つのは、ホテルの総支配人を演じる役所広司だ。カンヌ男優賞俳優の彼が今回見せるのは、温和な微笑みの裏に底知れぬ狂気と虚無を宿した男の肖像である。撮影現場を目撃したスタッフは「役所さんがカメラの前に立った瞬間、セットの温度が数度下がったように感じた」と証言する。
共演陣の顔ぶれも凄まじい。国内外の実力派が名を連ねる中、現場では台本の変更が日常茶飯事だったという。即興性を重視する是枝演出と、一分の隙もない心理戦を要求する脚本。役者陣の神経を極限まで研ぎ澄ませた環境が、フィルムに異様な緊迫感を焼き付けた。