まずは基本となる和歌の構造を整理します。『古事記』上巻のクライマックス、須佐之男命が出雲の須賀(現在の島根県雲南市大東町)に宮殿を建てた場面に登場する一首です。
【原文】
夜久毛多ツ 出雲八重垣 妻籠微尓 八重垣都久流 曾能八重垣袁(古事記表記)
八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を
(やくもたつ いづもやへがき つまごみに やへがきつくる そのやへがきを)
【八雲立つ出雲八重垣の現代語訳】
「幾重にも雲が湧き上がる出雲の地に、雲が八重垣を巡らせるように、愛する妻を匿い住まわせるために立派な八重垣の宮殿を造る。ああ、見事なその八重垣よ」
歌の構造を品詞と技法に分解すると、初句の「八雲立つ」は次句の「出雲」を導く枕詞(まくらことば)として機能しています。立ち込める雲の生命力と、出雲という地名が持つ霊威が見事に呼応しています。そして特筆すべきは、三十一文字という限られた音数の中で「八重垣」という名詞が実に3回も反復されている点です。通常の詩歌であれば冗長として避けられる表現ですが、ここには古代人の切実な「言霊(ことだま)」への信仰が宿っています。