1969年の初演から半世紀以上。ミュージカル『ラ・マンチャの男』で主役ドン・キホーテを演じ続けた軌跡は、日本の演劇史における金字塔だ。1300回を超える単一主演の快挙。だが、その偉業の裏には凄絶な代償が存在した。激しい殺陣、腹底から絞り出す歌声、重厚な甲冑を背負っての長時間の演技は、肉体に致命的な疲労を蓄積させていった。
最後の公演を終えた際、劇場を包んだのは万雷の拍手と、どこか切ない静寂だった。「見果てぬ夢」を歌い上げたあの声は、満身創痍の状態で絞り出された奇跡の響きだった。舞台を降りた直後、楽屋で椅子に深く沈み込む姿を関係者は目撃している。この作品への命がけの献身こそが、後年の体調低下と休演の直接的な背景にあることは間違いない。